なぜ今、Copilotの全社展開なのか?コニカミノルタが抱える課題

製造業と聞くと、多くの人が高い技術力や精密な生産体制を思い浮かべるでしょう。しかし、その一方で、組織の「サイロ化」という構造的な課題に直面している企業も少なくありません。営業、製造、研究開発、管理部門など、それぞれの事業部が独自の業務性質、文化、システム環境を持ち、高い独立性を持って運営されていることが多いのです。これは、それぞれの専門性を高める上でメリットがある一方で、部門間の連携を難しくし、情報共有の壁を作ってしまう可能性があります。

このような多様な現場に対し、もしトップダウンで画一的なAI活用方針を押し付けたとしましょう。結果はどうなるでしょうか?各部門の実態や期待値との間に大きなギャップが生まれ、せっかく導入したAIが形骸化してしまうリスクが非常に高いのです。これでは、AIを導入した意味が薄れてしまいますよね。

コニカミノルタも例外ではありませんでした。同社は、中期経営計画の最終年度である2025年度を「Turn Around 2025」と位置づけ、将来に向けた成長基盤の確立を経営の重点方針として掲げています。この壮大な経営方針を実現するためには、経営改革の効果や事業の利益成長だけでなく、全社員一人ひとりの生産性向上と創造性の発揮が不可欠だと考えていました。そのため、AIの全社展開にあたっては、各部門の実態を深く理解した上で戦略を設計し、さらに部門ごとにその効果をしっかりと検証できる仕組み作りが急務だったのです。

手挙げ制での先行導入から伴走支援へ

コニカミノルタでは、こうした背景のもと、2024年4月から有志社員によるCopilotの先行導入をスタートしていました。予想を上回る参加希望者の増加を受け、AIが社員の業務に与えるポジティブな影響を強く実感していたことでしょう。そして、2025年10月からは、AI活用における豊富な知見を持つディスカバリーズの伴走支援が始まりました。

ディスカバリーズは、増員した参加者への段階的なトレーニング支援と並行して、翌年度に控える全社展開トライアルという重要な局面を見据え、「コンセプトワーク」を実施しました。多くのAIプロジェクトでありがちなのが、「とにかく早く導入しよう!」とスピードを重視しすぎるあまり、「何のために、どこを目指すのか」が曖昧なまま進んでしまい、結果的に手戻りが発生してしまうケースです。ディスカバリーズは、このようなリスクを未然に回避するため、戦略的な準備フェーズとしてコンセプトワークを提案し、コニカミノルタと共にプロジェクトの「核」を固めていったのです。

全社展開を成功に導く「コンセプトワーク」の全貌

Copilotの全社展開を成功させるためには、単にAIツールを導入して活用すること自体をゴールにしてはいけません。それはあくまで手段であり、真の目的は、経営方針や全社的なデジタル変革を実現するための施策の一環として、AIを位置づけることにあるのです。この重要な認識をすべての利用者に共有することが、プロジェクト成功の鍵を握ります。

ディスカバリーズがコニカミノルタと共に実施したコンセプトワークは、まさにこの「真の目的」を明確化することにありました。翌年度に実施する全社展開トライアルに向けた具体的なゴールを明確にし、推進チームの全メンバーがその目的と方向性を共通認識として持つことを目指したのです。

コンセプトワーク結果サマリー

ビジョンとKGI/KSFの策定プロセス

ディスカバリーズの伴走支援メンバーは、コニカミノルタの推進チームと徹底的なヒアリングやディスカッションを重ねました。その中で、以下の6つの要素を統合的に整理し、具体的な言葉として紡ぎ出していきました。

  1. 経営方針: 中期経営計画「Turn Around 2025」との整合性。AI活用が単なる業務効率化に留まらず、経営戦略の中核をなすものであることを確認しました。この計画が目指す「将来に向けた成長基盤の確立」に、AIがどのように貢献できるかを深く掘り下げたのです。
  2. チームのミッション: 推進チームが果たすべき役割。プロジェクトを推進するチームが、どのような目標を掲げ、どのような価値を提供すべきか、その存在意義を明確にしました。単なるツール導入担当ではなく、組織全体の変革をリードする役割を再定義したと言えるでしょう。
  3. 企業の文化: 推進していく上で考慮すべき社風。コニカミノルタが長年培ってきた企業文化や社員の働き方を尊重し、AI導入がその文化とどのように調和し、さらに発展させていけるかを議論しました。一方的な変化ではなく、企業文化に根ざした変革を目指したのです。
  4. DX戦略: 全社的なデジタル変革の狙い。コニカミノルタが目指すDXの全体像の中で、Copilotがどのような位置づけで、どのような役割を担うのかを明確にしました。個別のAI導入ではなく、DX戦略全体の中での最適解を模索したのです。
  5. 推進チームの価値観(思い): 推進メンバーが大切にしたいこと。プロジェクトを動かす人々が、どのような信念や情熱を持って取り組むのか。メンバー個々の「思い」を言語化することで、チームの一体感を高め、困難に直面した際の原動力となる価値観を共有しました。
  6. 事業部門側の状況や期待値: 現場起点でのCopilotへの現状の取り組みと期待。実際にAIを使う現場の声を何よりも重視し、各事業部門がCopilotに何を期待し、どのような課題を解決したいと考えているのかを丁寧に聞き取りました。これにより、現場とのギャップを最小限に抑え、実効性の高い戦略を策定することが可能になりました。

コンセプトワークを構成する6つの要素

これらの要素を統合的に整理することで、コニカミノルタの推進チームは、全社展開トライアルの「なぜ」と「どこへ向かうのか」を深く理解し、共通の目指す姿を持つことができました。

データドリブンな戦略設計

ビジョンを達成するためには、明確な戦略と具体的な実行プロセスが不可欠です。コンセプトワークでは、以下の段階的アプローチを設計しました。

  • Step 1: 全社員の利用経験の創出: まずは全社員がCopilotに触れ、その可能性を「認知」し、「興味関心」を持つことから始めます。このステップでは、利用者の行動変容プロセスを重視し、積極的にAIを試してみたくなるような環境を整備しました。

  • Step 2: 利用状況の可視化: 実際に使われたAIがどのような状況にあるのかを「見える化」します。後述するダッシュボードやアンケートを通じて、利用状況をデータドリブンに分析し、客観的な事実に基づいて次の手を打ちます。

  • Step 3: 部門ごとの継続的な判断支援: 可視化されたデータをもとに、各部門がCopilotの有効性を検討し、自部門での継続可否を判断できるような支援を行います。もし利用を継続しない部門があったとしても、その理由をしっかりと把握し、改善につなげることで、より良いAI活用へと発展させていくことを目指しました。

ビジョン達成に向けた戦略的アプローチ

このアプローチにより、コニカミノルタは単にツールを導入するだけでなく、社員一人ひとりの行動変容を促し、組織全体のAIリテラシーを高めながら、真に効果的なAI活用を実現するための土台を築き上げることができました。

Copilot利用状況を「見える化」するデータダッシュボード

コンセプトワークで設計された戦略を絵に描いた餅で終わらせないために、ディスカバリーズはCopilotの利用状況を継続的にモニタリングできる、Microsoft Power BIを活用した分析用ダッシュボードを構築しました。このダッシュボードは、推進チームだけでなく、社内の誰もが閲覧できる形で提供され、データに基づく意思決定を可能にしました。

Copilot 利用状況レポート

ダッシュボードで可視化している主要な分析軸

このダッシュボードでは、Copilotの利用状況を多角的に分析するための重要な指標が可視化されています。

  • 利活用状況: アクティブユーザー率や平均アクティブ日数の推移を把握することで、Copilotがどれだけ日常業務に浸透しているかを確認できます。

  • 組織利用の深さ: 組織別の利用頻度や操作回数を分析することで、どの部署でCopilotが深く活用されているか、あるいは活用が遅れているかを特定できます。

  • アプリ別・機能別分析: Teams、Outlook、Word、Excel、PowerPointなど、どのMicrosoft 365アプリでCopilotの活用が進んでいるかを把握します。これにより、特定のアプリでの活用促進策を検討できます。

  • 効果分析: 概算での合計削減時間を可視化します。これはCopilot導入による業務効率化の具体的な成果を示す重要な指標となります。

データがもたらす戦略的意思決定の価値

このダッシュボードの導入により、以下のような戦略的な意思決定が可能になりました。

  • 部門別の優先支援先の特定: 利用率が低い部門を早期に発見し、集中的なサポートやトレーニングを実施することで、組織全体のAI活用レベルを底上げできます。

  • 効果的な活用パターンの特定: どの業務(会議要約、メール作成、資料作成、データ分析など)でCopilotが特に効果を発揮しているかを特定し、その成功事例を社内に共有することで、他の社員の活用を促します。

  • 施策効果の検証: 新しいトレーニングや社内周知施策を実施した前後で、利用者数やアクション数がどのように変化したかを時系列で確認し、施策の効果を客観的に評価できます。

  • 経営層への価値報告: 推定削減時間など、概算ベースでの投資対効果を可視化することで、経営層に対してCopilot導入の具体的な価値を明確に報告できます。

特に、組織のサイロ化という課題を抱えるコニカミノルタにとって、このデータの透明性は非常に有効でした。各部門が独立性高く運営される環境では、推進チームからの一方的な情報発信だけでは現場の納得感を得にくいことがあります。しかし、ダッシュボードを全社公開することで、各部門は自部門と他部門の状況を客観的に比較でき、「自分たちはどう取り組むべきか」を自律的に考える土台が生まれました。部門長が自部門の状況を把握し、継続判断を行える環境は、決して「押し付け」ではない、現場起点のAI活用を実現する上で不可欠な要素となっているのです。

高い利用実績を生み出したトレーニング支援

コンセプトワークと並行して、ディスカバリーズは、手挙げ制で参加した社員に対して、2025年10月から手厚いトレーニング支援を実施しました。このトレーニングは、単にツールの使い方を教えるだけでなく、参加者の利用段階やニーズに合わせて戦略的に設計・実施されたものです。

ディスカバリーズが支援したCopilotトレーニング

  • Copilot基礎トレーニング: Copilotの利用が初めてという初心者向けに、生成AIの基本的な理解や利用上の注意点、プライバシーやセキュリティに関する解説を行いました。さらに、すぐに試せる機能のデモンストレーションも交え、AIへの心理的ハードルを下げることを目指しました。全国の社員が場所を問わず参加できるよう、オンライン形式で開催されました。

  • プロンプト基礎トレーニング: 生成AIへの指示文である「プロンプト」の書き方に戸惑う初心者が多いことから、様々なビジネスシーンに当てはめながら、意図した回答を引き出すためのプロンプト作成スキルを伝授しました。これにより、より効果的にCopilotを活用できるようになります。

  • Copilotハンズオンワークショップ: 座学だけではなかなか使い始められないという声に応え、関東・東海・関西の各拠点で対面形式のハンズオンワークショップを開催しました。講師が受講者の操作を直接サポートすることで、現場で生じやすい初期の戸惑いや操作上のつまずきを、その場で解消できる貴重な機会となりました。

驚異的なCopilot利用実績

これらの包括的なトレーニング支援の結果、部分導入フェーズにおいて、わずか2ヶ月間(2025年10月1日~11月30日)で驚くべき利用実績が得られました。

  • アクティブユーザー率: 99.2%

  • Copilot Chat 利用率: 87.3%

  • Teams 会議要約機能利用率: 97.6%

Copilot利用実績

これらの数字は、Copilotが短期間で社員の日常業務に深く定着し、業務効率化と生産性向上に大きく貢献していることを明確に示しています。社員が積極的にAIを活用し、その効果を実感しているからこその高い利用率と言えるでしょう。

「使わせる」ではなく「納得して選択する」AI活用へ

2026年4月からスタートするコニカミノルタのCopilot全社展開トライアルは、「部門ごとに最適な生成AIを選び、確実に効果を出していく」という、非常に先進的なコンセプトのもと設計されています。これは、一律に単一のAIツールを全社に強制的に展開するようなアプローチとは一線を画します。

まず、全社員がMicrosoft 365 Copilotを実際の業務で試用し、各部門の業務特性や抱える課題に対して、Copilotがどの程度有効なのかを1年間かけてじっくりと検証します。この検証結果を基に、部門ごとに最適な生成AI活用の方向性を見極めていくという、まさに「現場起点」の戦略的アプローチです。

このアプローチの最大の狙いは、「使わせる」のではなく「各部門が納得して選択する」AI活用を実現することにあります。社員一人ひとりがAIの価値を理解し、自らの業務に合わせて最適なツールを選び取ることで、真の意味での生産性向上とイノベーション創出が期待されます。ディスカバリーズは、今後もコニカミノルタの全社展開トライアルを伴走支援し、Copilotが単なる効率化ツールに留まらず、組織のイノベーションと価値創造を加速させるAX(AI Transformation)戦略を共に推進していくことでしょう。

コニカミノルタ担当者が語るコンセプトワークの真価

コニカミノルタ株式会社 DX推進室 室長である原田 英典氏も、今回のコンセプトワークがもたらした価値について、次のように語っています。

「手挙げ制での高い成果を目の当たりにし、『このまま全社展開トライアルに進めば一定の成果が出る』という期待がありました。しかし同時に、『本当にこのまま進めていいのか』という一抹の不安もありました。ディスカバリーズ様から『全社展開の前に、推進チームとして向かうべき方向を明確にしませんか』と提案をいただき、コンセプトワークに取り組むことを決断しました。正直、当初は『遠回りではないか』とも感じましたが、実際にチームで時間をかけて議論を重ねる中で、それぞれが持っていた前提や目指したい姿が微妙に異なることに気づかされました。」

原田氏の言葉からは、初期の不安と、コンセプトワークを通じて得られた深い気づきが伝わってきます。表面的な成果だけでなく、その根底にある「なぜ」を問い直すことの重要性を物語っています。

「このプロセスを経たことで、推進チームの結束が格段に強まり、『なぜやるのか』が腹落ちしました。今では、あの時間は決して遠回りではなく、むしろ最短ルートだったと確信しています。全社展開では、各部門が自律的に判断できる環境を整え、押し付けではない真のAI活用を実現していきます。ディスカバリーズ様には、引き続き伴走いただき、当社の変革を共に推進していただくことを期待しています。」

コニカミノルタ株式会社 DX推進室 室長 原田 英典 氏

このエンドースメントは、コンセプトワークが単なる書類作成ではなく、推進チーム内の認識を統一し、強い結束を生み出す「対話のプロセス」そのものに大きな価値があったことを示しています。目的や目標が不明確なままプロジェクトを進めることのリスクを回避し、結果的に成功への最短ルートを歩むことができたという確信は、今後の全社展開トライアルの大きな推進力となることでしょう。

ディスカバリーズとは

ディスカバリーズ株式会社は、「働くすべての人たちがイノベーションをもたらす世界を創る」をミッションに掲げ、コミュニケーションやコラボレーションを再設計しています。AIを活用して組織のナレッジを人と繋げ、新しい価値(イノベーション)が生まれやすい組織変革、すなわちAX(あらゆる業務にAIを組み込んだ組織のトランスフォーメーション)でお客様の成功を支援しています。

SaaS型クラウドサービスの開発・販売に加え、上場企業100社以上の実績を持つコンサルティング・サービスを提供。マイクロソフト認定ソリューションパートナーであり、2011年にはマイクロソフト パートナー オブ ザ イヤーを受賞するなど、その専門性と実績は高く評価されています。

ディスカバリーズの詳しい情報はこちらからチェックしてみてくださいね。