フィジカルAIって、そもそも何?
「フィジカルAI」という言葉、あまり聞き慣れない方もいるかもしれませんね。簡単に言うと、これは「ロボットが周りの状況をしっかり見て、自分で考えて、柔軟に動く」ためのAI技術のことなんです。例えば、工場で複雑な作業をするロボットや、倉庫で荷物をテキパキ運ぶロボット、災害現場で人命救助にあたるロボットなど、現実世界で物理的な動きを伴うAIを搭載したシステム全般を指します。
最近、このフィジカルAIへの注目度がグングン高まっています。なぜなら、ロボットがただ決められた動きをするだけでなく、状況に合わせて臨機応変に対応できるようになれば、もっとたくさんの場所で活躍できるようになるからです。まるでSF映画の世界が現実になるような話ですよね!
ロボット単独では難しい「高度な判断」
しかし、このフィジカルAIを実現するには、いくつかの大きなハードルがありました。ロボットが柔軟に判断し、動くためには、膨大な量のAI処理が必要です。センサーやカメラから得られる大量の情報をリアルタイムで解析し、その結果に基づいて最適な行動を導き出す。これって、とっても複雑な計算が求められるんです。
もし、この全てのAI処理をロボット単体で行おうとするとどうなるでしょう?ロボットに搭載できる計算資源(CPUやメモリなど)には限りがありますよね。スマホがたくさんのアプリを同時に動かすと重くなるように、ロボットも高度なAI処理を全部自分でやろうとすると、動作が遅くなったり、バッテリーの消耗が激しくなったり、最悪の場合、処理が追いつかなくなって止まってしまう可能性もあります。
だからこそ、ロボットが高度な判断を求められる場面では、ロボット単体ではなかなか対応しきれない、という課題があったんです。
ネットワークがロボットを賢くする「AI-RAN」の挑戦
この課題を解決するために、ソフトバンクとエリクソンが目をつけたのが「AI-RAN」という新しい考え方です。AI-RANとは、AI(人工知能)とRAN(無線アクセスネットワーク)を融合させることで、通信ネットワーク自体がAIの処理能力を持つ、あるいはAI処理を最適化する役割を担うというもの。今回の実証実験は、このAI-RANに関する共同研究開発の一環として行われました。
外部の計算資源「MEC」と連携する
実証実験のポイントは、ロボットのAI処理を「外部の計算資源」と連携させることでした。具体的には、「MEC(Multi-access Edge Computing)」という技術を活用します。MECとは、ネットワークの「エッジ」、つまりロボットのすぐ近くに高性能なコンピューティング基盤を配置し、そこでAI処理の一部や全体を行う仕組みです。これにより、ロボットは重たい計算をMECに「オフロード」できるわけです。
イメージしてみてください。皆さんが使うスマホで、重たいゲームをするときに、スマホ本体ではなく、クラウド上の高性能なサーバーが処理の一部を肩代わりしてくれるようなものです。これなら、スマホ本体の負担が軽くなり、スムーズにゲームを楽しめますよね。ロボットとMECの関係もこれと似ています。
しかし、ただMECに処理をオフロードすれば良い、というわけではありません。ロボットとMECの間でデータをやり取りする通信ネットワークが非常に重要になります。特に、フィジカルAIでは、リアルタイムでの判断と動作が求められるため、「低遅延」で「高信頼」な通信が不可欠なんです。
従来のネットワークでは、AIの処理とRAN(無線アクセスネットワーク)の制御が別々に設計されていました。そのため、外部の計算資源を使うことを前提とした、柔軟で一体的な制御が難しかったのです。これが、フィジカルAIを実際に導入する上での大きな壁となっていました。
実証実験のすごい中身!動的なオフロードと差別化された接続
ソフトバンクとエリクソンは、この課題を乗り越えるために、それぞれの得意な技術を組み合わせました。
ソフトバンクが開発中の「AI-RANのMEC基盤を活用したリアルタイム処理技術」と、エリクソンの「ネットワーク機能を活用した5Gネットワーク」を連携させることで、ロボットと通信ネットワーク、そして外部の計算資源を一体的に制御できる「AI処理のオフロード基盤」を構築したのです。
状況に応じてAI処理を切り替える賢さ
このオフロード基盤のすごいところは、ロボットの動作状況や求められる処理内容に応じて、AI処理を「ロボット単体で実行するか」と「MEC基盤へオフロードするか」を動的に、つまり自動で切り替えられる点です。例えば、簡単な作業中はロボット単体で処理し、複雑な判断が必要になった瞬間にMECへ処理を移す、といったことが可能になります。
これにより、ロボットは常に最適な計算資源を使い分けられるようになり、より柔軟で高度な判断・動作を実現できるようになりました。バッテリーの消費も抑えられ、デバイスの計算負荷も軽減できるという、まさに一石二鳥の仕組みですね!
ネットワークの最適化「差別化された接続」
さらに、もう一つの重要な技術が「差別化された接続(Differentiated Connectivity)」です。これは、アプリケーションごとに異なる「遅延」「スループット」「信頼性」といった通信の要件に合わせて、ネットワークを最適化する技術のこと。
例えば、ロボットの緊急停止信号のような、絶対に遅れてはいけない通信には「超低遅延」と「高信頼性」を確保する。一方で、あまりリアルタイム性を求められないデータ送信には、そこまで厳しい要件を設定しない、といった具合です。この最適化は「ネットワークスライシング」や「優先制御」といった技術を使って実現されます。
ネットワークスライシングは、一つの物理的なネットワークの中に、用途や目的に応じて複数の「仮想的なネットワーク(スライス)」を構築する技術です。これにより、まるで専用回線を使っているかのように、特定のアプリケーションに最適な通信環境を提供できるようになります。
この「動的なAI処理のオフロード」と「差別化された接続」を組み合わせることで、ソフトバンクとエリクソンは、安定したフィジカルAIの運用が可能であることを実証しました。

この図は、ロボットのAI処理における2つの動作モードを比較しています。左側はロボット単体でAI処理を行う場合、右側はAI処理をMEC(Multi-access Edge Computing)にオフロードする場合のシステム構成とデータフローを示しており、MECを活用した効率的なAI処理のメリットが描かれています。
広がる未来!AI-RANが拓く次世代産業
今回の実証実験の成功は、スケーラブルなフィジカルAIの導入、つまり、たくさんのロボットを大規模に導入し、運用していくための大きな一歩となります。そして、製造業や物流、インフラ保守など、さまざまな産業における次世代のロボティクス・ユースケースへの道が開かれることになります。
産業現場での活躍
例えば、製造工場では、品質検査や組み立て作業を行うロボットが、より複雑な不良品を瞬時に見分けたり、熟練工のような繊細な作業をこなしたりできるようになるでしょう。物流倉庫では、多種多様な荷物を効率的にピッキングし、状況の変化に柔軟に対応しながら最適なルートで運搬するロボットが登場するかもしれません。
また、老朽化したインフラの点検や災害現場での調査など、人が立ち入るのが難しい場所でも、高性能なフィジカルAIロボットが活躍することで、より安全で効率的な作業が可能になるはずです。きっと、私たちの社会を支える縁の下の力持ちとして、ロボットの存在感はますます増していくことでしょう。
「Networks for AI」という壮大なビジョン
ソフトバンクとエリクソンは、この取り組みを通じて、通信とインテリジェンスが真に融合した「AI-RAN」の実現を目指しています。そして、さらにその先には、あらゆる産業でAIドリブンなサービスを可能にする「Networks for AI(AIのためのネットワーク)」という壮大なビジョンを掲げています。
これは、ネットワークが単にデータを運ぶだけでなく、AIの能力を最大限に引き出し、新たなサービスや価値を生み出すための基盤となる、という考え方です。今回の実証実験で検証された「差別化された接続」と「エッジインフラへのAIワークロードの動的オフロード」は、このビジョンを実現するための非常に重要な要素となります。
両社はこれからも、分散型AIワークロード、つまり複数の場所でAI処理を行うようなシステムを支える次世代ネットワーク機能の高度化を進めていくとのこと。私たちの想像を超えるような、新しいAIサービスが次々と生まれてくるかもしれませんね!
関係者のコメントから見えてくる未来
今回の実証実験の成功について、ソフトバンクとエリクソンの関係者からもコメントが寄せられています。
ソフトバンクの執行役員 兼 先端技術研究所 所長の湧川隆次氏は、「社会課題の解決に向けて、通信インフラの役割そのものを進化させるAI-RANの技術や、MEC基盤を活用したリアルタイム処理技術の開発を進めてきました。今回構築した、AI処理を動的にオフロードする仕組みと、低遅延かつ高信頼なネットワークのさらなる高度化を進めることで、より柔軟で高度な判断が可能なフィジカルAIの実現を目指します」と述べています。社会課題解決への強い意欲と、技術進化への期待が感じられますね。
一方、エリクソン・ジャパン株式会社の代表取締役社長のジャワッド・マンスール氏は、「ロボティクスのようなフィジカルAIアプリケーションには、変化する計算および接続の要求にリアルタイムで適応できるネットワークが求められます。ソフトバンクの技術とエリクソンの差別化された接続の活用により、AIワークロードをエッジインフラ全体にわたり動的にオフロードし、支えることが可能であることを実証しました。これにより、エリクソンのネットワークに期待される性能と信頼性を維持しながら、RAN上での新たなAIドリブンなサービスの創出を可能にします」とコメント。エリクソンが培ってきたネットワーク技術が、AI時代の新たなサービス創出に貢献することへの自信がうかがえます。
両社の技術とビジョンが融合することで、フィジカルAIの未来がさらに明るく、現実味を帯びてくることは間違いなさそうです。
エリクソンについて
今回の共同実証実験で協力したエリクソンは、スウェーデンに本社を置く、通信技術とサービスを提供する世界的なリーディングカンパニーです。150年以上にわたり通信テクノロジーの開発をリードし、高性能なネットワークを通じて世界中の何十億もの人々にコネクティビティを提供しています。通信事業者や企業向けにモバイル通信とコネクティビティのソリューションを提供し、お客様やパートナーとともに未来のデジタルな世界を実現することを目指しています。
エリクソンの詳細については、以下のリンクから確認できます。
まとめ
ソフトバンクとエリクソンによる今回の実証実験は、フィジカルAIの可能性を大きく広げる、とても重要な成果だと言えますね。ロボットがもっと賢く、もっと自律的に動けるようになることで、私たちの社会はさらに便利で、豊かになっていくことでしょう。
工場や物流、そして私たちの日常生活のあらゆる場面で、AIとネットワークが融合した新しいサービスが生まれる未来が、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。これからも、ソフトバンクとエリクソン、そしてAI-RANの進化から目が離せませんね!